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自分から言い出したのに、ふと考えてしまった。
最初、副社長は自分がグローバルワールドの副社長であることは隠していた。
もちろん俺の存在だってそうだ。
今、ここで俺が自分の正体をばらしてもいいものだろうか。
考えあぐねて、俺は言った。
「………俺、Moon blossomの常連なんです」
これなら………当たり障りないだろう。
「そこで、佐久間さんとシズカさんの話を聞いて………」
全くの嘘ではないし。
これが良い言い訳になればいいけど………と、藤浪さんを見ると───。
何故か───ものすごくキラキラした瞳で俺を見ていた。
な、なんだ?
「ヨシさん、Moon blossomの常連さんなんですか!?」
「え、はい………もう5年くらい通ってます」
「まぁ!それは!!」
何故かすごく感動されている。
「そっかぁ、ヨシさんて………」
「あ、あの?」
「いえいえ!大丈夫ですから!」
「え?えっと………」
「私、そういう偏見とかないですから」
「いや、話がよく分からないんだけど………」
「いいんです、いいんです!ヨシさんも………そっかぁ」
その“ヨシさんも………”の続きが気になるんだけど。
「あの、一体何を………」
「いいのいいの!みなまで言わなくても!」
「いや、ちょっと………」
「大丈夫、大丈夫!誰にも言いませんから!」
その後も両腕を組んで、チラチラと俺を見ては「ふむふむ」とか「そっかぁ」とか一人で何か納得していた。
何か………すごく気になったけど、藤浪さんが俺を見る目がすごく優しくなって、さっきまでよりももっと距離感が近くなったように感じた。
副社長と知り合いだと分かって、親近感を持ってくれたのだろうか?
………それはそれで………複雑だけど。
良く分からないけど、楽しそうだから………まぁ、いいのかな?
「あ!ヨシさん、氷川丸の鎖にカモメが止まってます!」
そう言って駆けだした藤浪さんの背中を、複雑な気持ちで見つめた。
あの人は………副社長の、千咲さん………。
副社長は今でもまだ千咲さんのことが………。
そして千咲さんも副社長のことを………。
俺は………。
俺は………。
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