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*** side 要 ***
『良かったらうちでお茶と食事と………それから別なこと………していかない?』
その台詞にそりゃ、否応なしに期待が高まるわけで。
キュッキュッキュッ。
「わぁー、大滝君、すごいね」
「………そうでもないです」
俺を見上げる千咲さんに心の中で溜息を吐いた。
そうだ。
この人はこういう人だった。
天然小悪魔というか、なんというか………。
心弾ませていた“別なこと”とは、玄関の電球替えだった。
玄関まで持って来られた脚立に立つと、電球を手渡されたのだった。
脚立に乗っても手が届かなくて困っていたそうだ。
「大滝君、身長何センチ?」
「175センチですけど」
「20センチの差………こんなに違うのか。
いいなぁ、背が高いって」
俺くらいの身長ならざらにいるのに。
それでも千咲さんに褒めてもらえるとやっぱり嬉しくて、口元が緩む。
それに、千咲さんの部屋まで入れてもらえるなんて………。
食事の誘いもことごとく断られ、愛の告白すら通じなかったあの時を思えば、かなりの大進歩だ。
脚立を抱えてリビングに入ると、部屋中にカレーの香りが充満していた。
今夜は、カレーか♪
「昨日、作り過ぎちゃって。
お礼がカレーで申し訳ないけど、食べて行ってくれる?」
キッチンに立った千咲さんは、野菜を刻みながら俺を振り返る。
あぁ………。
いいな、この光景。
恋人同士みたいだ。
「その辺、適当に座ってね」
俺はラグの上に座ると、上着を脱いでネクタイを引き抜いた。
初めて来た千咲さんの部屋。
緊張もだいぶ解けてきた。
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