第1章

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春先まで残っていた雪が全て溶けてしまうと、季節は夏になるのである。  暑い。早坂和泉は風通しの悪い部室で、ふつふつと湧き出る汗を拭った。ぽたりと一雫が落ちた机には、とうに読み終わってしまった本が積み重なっている。  静かに流れる時間が、余計に夏の暑さを加速させている様で、和泉は小さく嘆息した。これを人は怠惰と言うのだろうか。 ( こんな時、あの子がいればなあ。 )  きっと、馬鹿みたいに言い合いから始めて、僕はあの子の小さな頭をぐしゃぐしゃにして、それであの子は――、  そこまで頭に過った其れを、和泉は直ぐに否定した。一人しか居ない癖に、やけに慌てて首を振った。とうとう暑さで頭がやられたのだろうか。  そうだ気分を変えよう。お菓子でも食べて、と和泉が席を立ったその時、立て付けの悪い扉ががらりと開く音がした。
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