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一歩足を踏み出す度に翻る、まっさらな白衣。
風にさらりと揺れる、艶やかな黒髪。
すらりと伸びた、長い手足。
女子の堪えきれない歓喜の叫びをBGMに、私に向かってまっすぐ歩いてくる。
おかげで私は、野次馬化した男子の注目の的だ。
「………おい、美果。忘れ物。
手間とらせんじゃねぇよ。」
それだけ言うと、彼には似合わない、ピンク地に白い水玉模様のランチトートをずいっと渡してくる。
言葉は冷たいのに、口調や行動は優しいから。
ありがとう、とか、みんなの前で呼び捨てはやめてよ、とか。
言いたいことはあったのに、口には出せなくて。
うるさい周りに気もつけずに、こくん、と俯きながらうなずいた。
ちらり、と顔を見上げると、彼はふっと笑って私の頭をくしゃり、と撫でた。
じゃあまた、と彼の手が頭から離れて、ドアに向かって歩いていく。
なんとなく名残惜しげに、ドアの方に視線を向けると、出ていったかと思われた彼が戻ってきた。
ひょこっと、顔だけ出すような形で、彼は生徒たちに顔を向けた。
「…俺は、早瀬瑠斗。
この学校の専属保険医だ。
ケガしたり、気分が悪くなったりしたら、遠慮なく俺のところに来るように。」
以上、と彼は切り上げ、さっさと去っていった。
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