託される

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管理人さんは、たくさんある部屋の中でも、一番広そうな部屋の前に立ち止まった。 「私の孫の部屋はここですから、それ以外の部屋だったら好きなように使ってくださいね」 孫は今ちょっと出かけてるけど。 そう言われて、 あ、私、同居するんだった、 と今更ながら思い出した。 でも、それも仕方ないと思う。 大きな窓からは日光が射し込み、電気も点いているのに、 なぜか暗くて、冷たい廊下。 どの部屋も物が少なく、綺麗すぎて、人の気配がしない。 まだ人が住んだことのないような、温かみが欠けた部屋だった。 同居人さんは、能天気な私とは全く正反対の性格なのかもしれない。 遅ばせながら、若干の不安を感じ始めた。 ――――…… 管理人さんは手続きのための書類を取りに行った。 キッチンも、お風呂も、リビングも。 本当に広々としていて、綺麗で、これからここで生活するのだ、と思うと、顔が自然と綻んだ。 ……きっと、さっき感じた冷たさは、こんな広い部屋でたった1人で暮らしていたからだ。 でも。 今日からは、私が。 その人と一緒に暮らすんだ。 この部屋をもっと温かくできたらいいな… そう思いながら、部屋から繋がっている、バルコニーの広さに感動していた。 バーベキューとかできそう。 洗濯物を干すだけじゃ余りすぎるスペースの活用法を考えると、わくわくしてきた。 ガチャ、と鍵が開く音が、静かな空間に響いた。 このマンションは防犯対策もバッチリで、鍵はもちろんオートロックである。 だから、てっきり、部屋に入ってきたのは管理人さんだと思い込んでいた。 そのままバルコニーで待っていると、強い風を感じて、ぎゅ、と目を瞑った。 ふわっと風が舞って、カーテンが大きく波打つ。 「「……………………え?」」 密かな足音と、春風が連れてきたのは。 切れ長の瞳を少し見開いた、背の高い、イケメンだった。
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