§4 対価と退化

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良樹と別れたあとは買い物をしてベニヤ板の部屋に戻った。チュニック、Tシャツ、膝丈のスカート、ジーンズ、靴下。この夏に着たいものを買い揃えた。掘り出し物を見つけて高揚しては、レジでピン札を出してため息をつく。お金が惜しくて沈んでしまうのではなく、お金の出所を思い出して、胃が重くなる。これは性欲処理の対価。白濁した、不味い液体を口にした慰謝料みたいなもので、それで欲しいものを得ていることに惨めになった。 良樹の堂々とした容姿を見たせいもある。久々に見た良樹は大人びていた。誘い方、お金の出した方、コーヒーの飲み方……全てが洗練されている。同じ目線にいたはずの良樹がとても遠い位置にいるように見えた。社会人2年目ともなると世間に揉まれて、細胞内レベルで変わっていくものだと思った。 それに引き換え、私はどうなんだろう。短大卒業以降、成長していない。成長どころか下がっている。創立以来、初めての一流企業への内定を期待された短大生はフリーターへ、フリーターから娼婦へ。何もかもが退化して、下品になっていく。惨め、みっともない、汚い。存在がどんどん小さくなっていく。人間だった筈が虫になり、虫だった筈が腐って得体の知れない臭い泥になる。細胞レベルで腐っていくのだ。このままでいたら、私はどんどん黒くなって、濁って、いつかは存在すらなくなってしまうのではないか。
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