――勇者誕生編―― 1

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普通ならば、自分が見た夢なんて数分もすれば断片的にしか思い出せない。 でも俺は違った。 いや、違うのは「俺」では無く、きっとあの「最悪な夢」なのだろう。 高校生になってから毎週の金曜日に決まって見るこの夢は、何回も見るうちに、まるで俺が実際に体験したかのように俺の記憶に刻まれている。 自分でも少し、おかしいなと思うときはあるが、さほど気にはしていない。 せいぜい毎週金曜日は「イヤな日」としか認識していない。 なぜかというと、別に金曜日が嫌いなのではなく、あの「最悪な夢」を見る日がイヤなのだ。 それがたまたま毎週の金曜日なわけで、そのおかげで、毎回学校に遅刻しそうになるのだ。 というか大体が遅刻だ。 今日もいつも通りに遅刻しそうになっている俺は、半分まだ寝ている頭で愛用しているママチャリにまたがる。 前に付いている籠にバックを無造作に投げ入れ、元気いっぱいの太陽を背にしてペダルを漕ぎだす。 ママチャリ特有の漕ぎ初めのペダルの重さに顔を歪めながら、弱々しく 「だから金曜日はイヤなんだー。」 太陽に向かってきっと届かないであろう声で、そう叫んだ。
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