第1章

6/10
前へ
/10ページ
次へ
周囲に気をはらい、こそっと元の場所に戻る。 さっき、握られた手がまだ痛い。 無理やりキスされた、唇が熱い。 酷く嫌になる。泣きそうだ。 あたしは、遠くに見える北川くんを見つめてみた。 真剣な顔で仕事に取り組んでいる。 そんな姿に、なぜか癒された。 あたしの、視線に気づいたんだろうか北川くんと目があった。 びっくりして、慌てて視線をそらした。 ヤバい!気づかれた? 平然を装い作業に戻る。 「柚夏!どこ行ってたのよ?」 同期の愛弓が走りよってくる。 「トイレよ。」 「トイレにしては長すぎじゃない。有坂君と話てたでしょ?」 「なんで知ってるのよ?!」 「偶然見たのよ。あたしもトイレに行ってたから。」 嵐とのやりとりを愛弓に見られても別にかまわないけど。 嵐は独身出し。不倫とかってわけでもない。 作業しながら、また、北川くんを見てみる。 さっきとは、違ってあたしの視線に気付きもしない。 それが、なんか悔しかった。 もっと、意識させたい。 どうして。彼はあたしを見てくれないの。 なんか。むなしい。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加