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次の日も千雪は現れなかった。そっと彼女の教室を覗くと、彼女の席は別の人物が居座っていた。制服の着丈だのゴミを捨てろだの、既に聞き飽きた風紀委員の校内放送は、何時もマイク割れを起こす彼女の声では無かった。
世界が彼女を消した。
昨日と今日で、和泉の出した答えは其れだった。神様が、雪を溶かす様に彼女をこの世界から蒸発させてしまったのだ。よくある話だが、そうそう現実世界で起こって良い話では無い。
「謎だ……」
そう、謎である。崇め奉られている癖に、滅多に姿を現さない神とは時折身勝手な気紛れを起こすものなのかもしれない。
「謎なら、解いてやるのがミス研だよね」
普段あまり活動をしないこの部活の正式名称を、今こそ思い出し、口にしてみようではないか。
部室の机に伏せていた顔を、和泉はゆっくりと上げた。その表情に、意気消沈した様子は微塵も見られなかった。あちらが神様なら、こちらは魔王様である。
( もう一度、あの子の笑顔を見る為に、なんて。 )
覚悟を決めた頬が少し寂しそうに緩んだのを、和泉は慌ててぺしりと戒めた。違う違う、僕はただ部員として活動するだけだ。彼女に対する小さな否定が、また一つ増えた。
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