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 よく見れば、体にも無数の細かい擦り傷や切り傷が刻まれている。  どう考えてもただの家出少女には見えない。彼女に手を差し伸べるべきか、否か。迷う私に少女はあどけない笑顔を見せながら言った。 「あの、20ドル貸してくれませんか。それから、あそこに一緒に行って欲しいんです」  こんな小さな子が体を売っているのかと、思わず顔を顰めてしまった。しかし、これほど薄汚れていては、買い手を見つけるのも困難だろう。  そんな私の憐みに似た同情心を見透かしたように、「違います。あそこです」と彼女はもう一度指を指し直した。  指さされた建物は、どうやらホテルではなくカジノだったらしい。 「まさか、あそこでその20ドルを増やそうって言うのかい?」  少女は笑顔のままこくりと頷く。 「増えた分は差し上げます」  自信たっぷりに言う少女に、私は思わず苦笑いしてしまった。 「悪いけどギャンブルはしないって決めているんだよ。絶対に勝てるという保証がどこにも無いからね」  あまりに研究が上手くいかなかった頃、私はアルコールやギャンブルに嵌ってしまい、中毒のような状態に陥っていた。  数少ない友人、社会的信用など多くのものが私の手から消えていき、最後には愛する妻さえ家を出て行ってしまった。  妻はある日、ただ一つ大きなため息を残し、彼女愛用のスーツケースを転がし家を出て行った。パタンと閉じられたそのドアの閉まる音は、今でも私の耳の奥にこびりついたように残っていて消えてくれない。  スーツケースを手に何度妻と旅をしただろう。旅行前日になると嬉しそうに荷物を詰めだす妻の横顔を見ているのが、私はとても好きだった。  それなのに、私たちはいつしか旅行に行かなくなり、彼女のその顔を見ることもなくなってしまった。すべては私のせいだ。  大切なモノは失ってから気づく。得たものは、酒やギャンブルに関する教訓を身に染みて実感したことぐらいのものだろうか。  始めるのは容易いが、興奮物質を求める脳の支配下から抜け出すのは本当に大変だった。妻が出て行かなければ、私は今頃そこらへんで野垂れ死にしていたかもしれない。 「大丈夫。必ず勝てるから心配しないで」  いかさまでもしようと言うのだろうか。少女は自信たっぷりに微笑んでいる。 「ギャンブルはやらないと決めているんだ」
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