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「私はただ見る事が出来るだけなの。でも、あそこに連れて行ってくれたら、きっとネオ幾何学にもっと近づけるわ」
オウは再びカジノを指さした。
「そんなにカジノに行きたいの?」
「行かないといけないの。それはあなたの為でもあり、私の為でも、ラゴラの為でもある」
◆
「キラキラしていて綺麗」
オウはホテルの大きな窓からラスベガスの煌びやかな夜景を眺める。
「どうしてこのまま行かないの?」
「カジノに入るにはそれなりに整った格好をしていかないといけないんだよ。それにオウの年齢では入口で追い返されると思うけど」
「大丈夫、必ず入れるわ」
にっこりほほ笑むオウの目には、やはり何か不思議な力があるのかもしれない。
ホテルにチェックインする際も、止められるのではないかと心配していたのに、オウがフロント係にただにっこりと笑いかけると、フロント係はまるで美しいレディーでも扱うかのようなうっとりした目をして彼女を部屋に案内した。
確かにオウはまだ幼くはあるが美人だと思う。でも、今の格好を見てそう思う人は殆どいないのではないだろうか。
何日シャワーを浴びていないのか鼻につくような臭いがするくらいだし、服も体もかなり汚れている。
しかしホテルの部屋に入って1時間、私は途方に暮れていた。
オウにシャワーを浴びる事を勧めても首を傾げるだけで、少し強い口調で「髪と体を洗いなさい」と、言うとこくりと頷きその場で服を脱ごうとする。慌てふためいて止めた私がおかしいのかと思う程、オウには恥じらいの感情がないらしい。
バスルームを知らないなんて、オウは今までどこにいたんだろう。好奇心がないわけではないが、それを聞いてしまうとどうも厄介事に巻き込まれそうな予感がする。
しかし私がオウを洗うわけにもいかないし困ったな。
オウは私に背を向けたまま、ラゴラと一緒に窓の外の景色を熱心に見ているようだった。ラスベガスの夜景を初めて見るんだろうか。
こんな事を頼める女性の知り合いなんて……ふと頭に浮かんだ馬鹿げた考えを追い出す。
そんな都合の良い事今更頼めるはずがない。それに、彼女の連絡先だってもう変わっているだろうし。
いつの間にか私の近くに来ていたオウは、ベッド脇に置かれた備え付けの電話をじっと見ていた。まさか電話もない環境にいたんだろうか。
オウは受話器を取って耳に当てると、でたらめに数字を押した。
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