なんとかなんのさ

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* なんやかんやで帰宅は予定通り23時過ぎ。 ドアノブに手をかけると鍵は開いてるんで、ヒナは帰ってきてる。 「腹減ったわ~」 俺の声だけがいつもと同じにむなしく響く1LDK。 あれ、ヒナ寝とんのか? 「ヒナァ?」 いつの間にかサッカー関連グッズで賑わう俺の部屋に、雑誌広げたまんま気持ちよさそうにヒナは寝とった。 読まずに数秒で落ちたんやろうな。 ただ、相変わらず寝顔は可愛い。 (キスしたろ) て思て顔近づけた瞬間、なんの法則なんかヒナはガバって起き上がって勢いよく「お帰りっ!」て言うから、驚いた俺は反射で「ただいま」て言う。 「転職先決まったんやて?」 ヒナは俺のジャケットをハンガーにかけながら聞く。 「8月末で退職や」 「おめでとさん」 「めでたないわ。どっくんにめっちゃ泣かれたわ。『うそやん、よかまくん、部下ほって辞めるなんて無責任や!』って。どっくんもう一人立ちしてほしいねんけど」 「亮はあんたのこと、ホンマのお兄ちゃんや思てるみたいやからなぁ~」 「そんなん言うてたん?」 「今日な」 「そぉ」 俺は営業鞄から資料を引っ張り出して机に置く。 「まだ終わってへんのん?」 「あとちょっと」 ヒナは書類を手に取ると、慣れた手つきで目を通す。 「あんたこれちゃんと押印申請したかぁ?」 「したわ」 「これ収入印紙貼ってへんで」 「ああ、それええねん。物品の譲渡契約で請書作ったから課税対象にならへん」 「あ、そうなん?」 「契約する毎、いちいち印紙貼ってたらたまらんやろ」 「そらそうや!」て関心したっぽいヒナは、“物品の譲渡契約”てブツブツ言いながら手帳にメモしとる。真面目なんも相変わらずやな。 「ヒナ、これに名前書いて」 俺はうっすい契約書をクリアファイルから取り出してヒナに手渡した。 「代筆ぅ?どこの客に相見積もり頼まれたんか知らんけどな、これ犯罪やからなぁ。シャチハタしか持ってへんけどかまへんよな」 「たぶん」 「たぶんてなんやねん。えーと、これなんや。……養子縁組_____届。」 ペラッペラの契約書持って、ヒナは固まった。
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