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しかし、その表情は冴えない。エーファはちらりと藤川ちるの隣にたたずむ黒い髪の可愛らしい童子ーー肝試し開始早々にして現れた妖怪である座敷童へと恐る恐るうつした。
別に座敷童が怖いわけではない。むしろ、可愛いとさえ思う。
ただ、そういう”人ならざるもの”が存在することを思い知らされたことに対してエーファは恐怖していた。
「確かにそうですねー。あっ、いいこと思いつきましたー。わたしが少しだけ涼しくしてあげますよー」
エーファの不安もどこ吹く風といった様子で藤川ちるが喋り終えた瞬間、実際に一陣の爽やかな風がエーファの身体を通り抜けるようにして吹いたのだ。
「えっ? わわっ!!」
彼女の名前に相応しい藤の花をあしらった白地の浴衣袖から見える一対の翼ーー藤川ちるの両腕に顕れている獣相。
それも、雪景色の中であっても色褪せることなく輝く丹頂鶴の白く美しい翼がそこにはあった。
彼女は、羽ばたくことで風を起こしたのだ。
ふわりとエーファの鼻腔をくすぐるお日様の香り。その優しい香りに全身が包まれたかのように錯覚し、恐怖心は薄れ安らぎを覚えた。
「ち、ちるさん……おおきに。ウチ、すごい楽になったわ」
素直に感謝の言葉が出てきたエーファに、ちるは満面の笑みで答えた。
「良かったですー。って、あぁっ!?」
ちるが短い悲鳴をあげて赤面する。彼女の視線の先はエーファの足元であり、それにつられて下を見るとーー
「げ、ゲロゲロォ!!」
ーー浴衣の下部分がはだけていた。それも太ももの付け根にまで届きそうなほどに開かれており、エーファの生足が思いっきり露出していたのであった。
一瞬で沸騰したかのように羞恥で顔を赤く染めながら、エーファ独特の口癖を叫ぶ。すかさず「ごめんなさい、ごめんなさい!」と、ちるが慌ててはだけた浴衣を直していく。翼とは思えない器用な手つきで。
「ふはははははっ! くす、くすぐったい!」
しかし、ちるの羽毛がさわさわと太ももに触れてしまいエーファはくすぐったさに笑いが堪えきれなかった。
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