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気がつけば前を歩いていた全員が何事かとエーファへ顔を向けていた。怪訝そうな表情を浮かべている辺り、先ほどのご開帳はどうやら見られていなかったのだとエーファは無理やり思い込むことで心の均衡を保とうとした。
「だ、だだ大丈夫やで! うん、にゃんもなかった……な、なんもなかったんや!」
動揺が完全にダダ漏れになっていた。丈の長い両袖と袂をぶんぶん揺らしながら顔を赤くして何もなかったと弁明する。
当然、他のメンバーはエーファの不可解な言動と動きを見れば明らかに何かあったのだろうと察しはついたに違いない。
そこでふと、ライアロウである一人の青年が何かに怯えるように後ずさった。
「ま、まさか!?」
芸術品のように観るものを魅了して離さない端正な顔立ち。筋肉質でありながら長身で均整のとれた身体つき。光の届かない屋内であっても自ら発光しているのではないかと疑いたくなるほどの鮮やかな金髪をした美青年ーーイーグル・フロウはその甘い相貌に暗い影を落としていた。
「君も……こ、こんにゃ……いや、なんでもないよ」
「イーグルさん、顔色が優れませんよ。そのようなトラップはエーファさんの付近では検知されておりませんので安心して下さい」
エーファから見て左半身が濃紺一色で右半身は白を基調に青い縞模様がついた藍染の浴衣を揺らすように震えるイーグル。その表情は浴衣の縞模様のように青く染まっていた。
そんな彼を窘めるような言葉を口にしたのはライアロウの少女であるチュニカ。彼女の姓をエーファは聞かされていない。
名工によって手がけられた精緻にして秀麗な人形を思わせる彼女の容姿は美しく、小降りな体躯と十代を迎えたばかりの少女のような愛くるしさとあどけなさを備えている。
ほとんど無表情で声にも抑揚があまり感じられない。
エーファとチュニカは今回の七夕祭りより以前、西の王国で催された演劇に共演しており見知った仲である。そのとき、エーファはチュニカに機械的や冷淡な印象ではなく不思議な温かさと優しさをもった少女だと雰囲気とでもいえる曖昧な感覚で感じとっていた。
ヌルヌルした物が苦手なイーグルの顔にトラップとして発動された糸付きの蒟蒻がビターンと張り付き、彼が取り乱した時もチュニカは優しく接していたことを思い出す。
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