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そして、エーファを心胆を寒からしめている理由がもう一つある。
パーソナルスペースに比べればたいしたことではないのだが、アルヘッカの痩せ型の見た目に反して体重が重いということである。
彼の着ている浴衣は紺一色の藍染にアルファベットのAに三枚の笹の葉のような柄が重なった模様が散りばめられている。しかし、アルヘッカの浴衣の足回りは泥にまみれて汚れていた。
その原因は肝試し序盤に重量の重さが災いして、腐敗により脆くなっていた床板を踏み抜いてしまったからだ。現在も彼の足下の床はみしみしと音を立てて軋んでおり、エーファは自分も巻き込まれて落ちるのではないかと不安でしょうがなかったのである。
「アルヘッカさん、えぇからちょっと離れてくれへんかな? ウチ、ちょっと人との距離が近いん苦手やねん……体調が優れへんとか嫌いとかそういうんやのうて、こういう色んなことに慣れてへんだけやから……せやから、お願い! 少し距離を!」
まぶたを閉じて懇願するような必死さで口にすると、さすがは紳士ーー「これは、失礼いたしました。体調が優れない理由にも納得できましたし、差し出がましいマネをいたしました」と二、三歩下がって洗練された物腰で深く一礼する。
「い……いや、こっちこそ心配してもろたのにすんません」
エーファは身体のラインが出にくい浴衣であってもなお自己主張の激しい自分の胸に長い袖に隠れた右手を添えて、アルヘッカに申し訳ないと思いながらもほっと一息ついて安堵した。
アルヘッカは特に気にした様子もなく柔和な笑顔でエーファから離れ、他のメンバーも止まっていた足を動かして肝試しを再開する。
ーーそれからしばらくして、一行は調べていない最後の部屋へと到着したのであった。
そこは、開けてはいけないパンドラの箱のように、災厄が待ち構えていることをエーファはまだ知らない。
続きはイラストで。
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