0人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあいい。その仮説が正しいとしてだ。俺たちは自分に催眠装置を使えばいいのか?」
「それはダメよ。他人をここに呼び出したら、ワームを感染させてしまう。それに、私達の頭の中にいる虫は特別なの。もっと強力な装置でないと倒せない」
「そんな装置あるのか?」
「あるわ。半年掛けて、改良を加えて……けれど、どうやっても欠点を解決できない事が昨日判明したの」
「欠点?」
「この装置を使うと、ワームに感染した以降の記憶が、全て消えてしまう」
「そんな……」
今、こうして会話している内容。それを思い出せなくなる。
いや、フネスの推測が正しければ、メモリーケインでの記憶を全て、喪失する事になるのだ。
「お互いの事を忘れちまうのか?」
「そうなるわね……」
フネスは淡々と言う。
「待ってくれ。俺は、忘れたくない。おまえの事を忘れたくない!」
海馬はフネスの手を取る。フネスは頬を染めながら俯く。
「私だって……」
「方法はないのか? 何かあるだろ?」
「ダメよ。私たちは、ワームの感染源になりかねない」
「なら、感染した人は全員治療していけば?」
「人類全員に、催眠装置を使うのは現実的ではないわ。それに催眠装置は治療じゃない。脳に不可逆な変化を与える装置よ」
「そうなのか?」
「催眠装置で治療を受けた人間は二度と催眠装置を使えなくなる、という部分で、薄々気づいている人もいるはず」
一分ほどの沈黙。
海馬は恐る恐る言う。
「なあ。それ使うの、明日じゃ、ダメか?」
「一日ぐらいなら、構わないと思うけど……それなら今日は何をするの?」
海馬は、提案する。
「そうだな。……映画でも見に行かないか?」
「いいわね。その後は食事にしましょう。いいレストランを知っているわ」
最初のコメントを投稿しよう!