第1章

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「まあいい。その仮説が正しいとしてだ。俺たちは自分に催眠装置を使えばいいのか?」 「それはダメよ。他人をここに呼び出したら、ワームを感染させてしまう。それに、私達の頭の中にいる虫は特別なの。もっと強力な装置でないと倒せない」 「そんな装置あるのか?」 「あるわ。半年掛けて、改良を加えて……けれど、どうやっても欠点を解決できない事が昨日判明したの」 「欠点?」 「この装置を使うと、ワームに感染した以降の記憶が、全て消えてしまう」 「そんな……」  今、こうして会話している内容。それを思い出せなくなる。  いや、フネスの推測が正しければ、メモリーケインでの記憶を全て、喪失する事になるのだ。 「お互いの事を忘れちまうのか?」 「そうなるわね……」  フネスは淡々と言う。 「待ってくれ。俺は、忘れたくない。おまえの事を忘れたくない!」  海馬はフネスの手を取る。フネスは頬を染めながら俯く。 「私だって……」 「方法はないのか? 何かあるだろ?」 「ダメよ。私たちは、ワームの感染源になりかねない」 「なら、感染した人は全員治療していけば?」 「人類全員に、催眠装置を使うのは現実的ではないわ。それに催眠装置は治療じゃない。脳に不可逆な変化を与える装置よ」 「そうなのか?」 「催眠装置で治療を受けた人間は二度と催眠装置を使えなくなる、という部分で、薄々気づいている人もいるはず」  一分ほどの沈黙。  海馬は恐る恐る言う。 「なあ。それ使うの、明日じゃ、ダメか?」 「一日ぐらいなら、構わないと思うけど……それなら今日は何をするの?」  海馬は、提案する。 「そうだな。……映画でも見に行かないか?」 「いいわね。その後は食事にしましょう。いいレストランを知っているわ」
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