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その日の夜、二人は高層ホテルのレストランで、夜景を見下ろしながら食事をていた。
「今日は楽しかったな」
「そうね」
「この記憶も、明日には無くなってしまうわけだが」
「そうね」
「気がつかなければ、ずっと一緒にいられたんだろうか?」
「それは……難しいんじゃないかしらね」
一緒にいることは可能だった。少なくとも、世界が崩壊するまでは。
二人は今や、世界の敵となったのだ。
「もう、始めよう。これ以上はダメだ。逃げ出したくなってしまう」
「そう? もう少し……いえ、そうね。始めましょう」
二人は取ってある部屋に戻る。
フネスは、ヘッドセットのような器具を二つ。カバンから取り出した。
「これがその機械か?」
「機械がやる事は、普通の催眠装置とあまり変わらないわ。ただし人を制御に使わない分、乱暴だけれどね」
二人はヘッドセットを頭につけてスイッチを入れると、ベッドに並んで横になった。
『記憶の初期化完了まで、後30秒です』
既に関係機関への連絡は済ませてある。記憶が消えている二人を発見して、適切に処理してくれるだろう。
心配するべきは、自分のことだけだ。
海馬はうわごとのように呟く。
「フネス、愛、して……」
最後まで言い切る事はなかったが、フネスは海馬の手を握り返す。
そして、二人の意識は途切れた。
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