第1章

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 その日の夜、二人は高層ホテルのレストランで、夜景を見下ろしながら食事をていた。 「今日は楽しかったな」 「そうね」 「この記憶も、明日には無くなってしまうわけだが」 「そうね」 「気がつかなければ、ずっと一緒にいられたんだろうか?」 「それは……難しいんじゃないかしらね」  一緒にいることは可能だった。少なくとも、世界が崩壊するまでは。  二人は今や、世界の敵となったのだ。 「もう、始めよう。これ以上はダメだ。逃げ出したくなってしまう」 「そう? もう少し……いえ、そうね。始めましょう」  二人は取ってある部屋に戻る。  フネスは、ヘッドセットのような器具を二つ。カバンから取り出した。 「これがその機械か?」 「機械がやる事は、普通の催眠装置とあまり変わらないわ。ただし人を制御に使わない分、乱暴だけれどね」  二人はヘッドセットを頭につけてスイッチを入れると、ベッドに並んで横になった。 『記憶の初期化完了まで、後30秒です』  既に関係機関への連絡は済ませてある。記憶が消えている二人を発見して、適切に処理してくれるだろう。  心配するべきは、自分のことだけだ。  海馬はうわごとのように呟く。 「フネス、愛、して……」  最後まで言い切る事はなかったが、フネスは海馬の手を握り返す。  そして、二人の意識は途切れた。
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