絶壁

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その後、刈った髪を給湯室の大きなごみ箱に捨て、病室に戻った時。 夫がこちらに背を向けて寝たふりをしながら、密かに泣いていた事に、私は気付いていた。 けれど知らないふりをして、静かに病室を出た。 あれからもう、2週間。 台所洗剤の入ったビニールをカサカサ鳴らしながら辿り着いた、通い慣れた大きな総合病院。 もうここへ通う必要は、なくなってしまった。 いつも通り混雑している外来受付けを抜け、エレベーターに乗り。 5階で降りてから、消毒液くさい空気を胸いっぱいに吸い込んで、溜め息をひとつ。 病室入り口に掲げられていたはずの、夫の名前の書かれたプレートは、早くも取り外されている。 なんとなくそこを指でなぞってから、私はゆっくりと引き戸を開けた。
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