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「いいわけないでしょーが。
アンタ、生徒なんだから」
途端に哀しそうに萎れる表情。
『生徒』
口に出す度に刺さる棘。
変えられない現実。
変わらない事実。
だけど………。
離れられないも紛れもない本音で。
「────ま、あと一年半、スリルを楽しみましょうカネ」
ひゅ、とカオルが息継ぐ音がする。
不安と期待が入り交じった瞳がまっすぐ俺を捕らえた。
「来る前、必ず連絡すること。
約束できる?」
ぱあ、と一瞬で上気する頬。
こくこくと壊れたおもちゃのように、激しく首を上下に振る。
その仕草に苦笑を浮かべてしまうのは、迷惑でも甘やかしでもなく。
自分のわがままを都合よくすり替えた俺自身に向けられたものなのかもしれない。
「あー腹減った!
なに食べようかなぁ」
背伸びをしながらカオルに背を向け駐車場へと歩を進める。
数秒遅れてパタパタと駆け寄る足音に、カオルに気づかれないよう小さく笑む。
────ペンギン。
あの日の水族館のカオルが脳裏に再生される。
しなやかな強さと、芯のある穏やかさ。
普段は控えめなのに、時々本当に予想外のことをしでかす。
まさか、こんなに溺れてしまう日が来るとは。
出来ることならその時の俺に忠告してやりたい。
『覚悟した方がいいよ。
そいつ、かなりの強者だから』
と。
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