第1章

33/40
前へ
/40ページ
次へ
そんな俺に 『羽村いるの、いないの?』 声は笑っているけれど、試すような口ぶりで畳み掛けてきた。 「いるよ。今、助手席」 『─────そっか』 一瞬の、間。 それが全てを物語っていた。 『じゃあ明日世界史のノート、コピらせてって羽村に伝えといて! 俺のノート、なぁんでかミミズが這ったみたな字ばっかで判読不明なんだよ!! あ、あとさぁ………』 イヒヒヒヒ!と空気を震わせながら笑う柴田。 「柴田、聞け」 本質に触れたくて今度は俺が会話を遮った。 『────仕方ないだろ』 先程までと打って変わった、真剣味を帯びた低い声。 『…………羽村、アンタじゃなきゃダメなんだから』 怒りとも哀しみとも愛しさとも取れる、甘苦い揺らぎに胸が縮む。 ────違うよ、柴田。 多分、カオルじゃなきゃダメなのは 俺の方なんだ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

283人が本棚に入れています
本棚に追加