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そんな俺に
『羽村いるの、いないの?』
声は笑っているけれど、試すような口ぶりで畳み掛けてきた。
「いるよ。今、助手席」
『─────そっか』
一瞬の、間。
それが全てを物語っていた。
『じゃあ明日世界史のノート、コピらせてって羽村に伝えといて!
俺のノート、なぁんでかミミズが這ったみたな字ばっかで判読不明なんだよ!!
あ、あとさぁ………』
イヒヒヒヒ!と空気を震わせながら笑う柴田。
「柴田、聞け」
本質に触れたくて今度は俺が会話を遮った。
『────仕方ないだろ』
先程までと打って変わった、真剣味を帯びた低い声。
『…………羽村、アンタじゃなきゃダメなんだから』
怒りとも哀しみとも愛しさとも取れる、甘苦い揺らぎに胸が縮む。
────違うよ、柴田。
多分、カオルじゃなきゃダメなのは
俺の方なんだ。
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