283人が本棚に入れています
本棚に追加
『うはは!
勘違いすんなよ、オッサン!』
沈黙が支配していた通信電波を、柴田独特な音調が破壊する。
『言わなかった?
もし羽村が自分から俺のところに来たときは、遠慮しないって!』
ポケットからタバコを取り出し、火を付けながら運転席側の窓からカオルを覗く。
目が合うと、不機嫌そうに唇が尖っていて。
ひとまず、ベェ!
先程のカオルを見習い舌を大きく出す。
そんな俺が意外だったんだろう。
むう!と眉間にシワを寄せたカオルが顔をクチャクチャにして、俺の半分ほどしかないような淡い朱の舌を突き出してきた。
肺に送り込んだ最初の紫煙を空に溶かしながら、こんなタイミングなのに愛しさが込み上げてくる。
………いや、むしろ
『こんなタイミングだからこそ』
なのかもしれない。
感情のまま。
思うまま。
そのままを表現してくれることが特権だと、酔っていたい。
『なに笑ってんだよ』
こっちの様子がわからない柴田が、自分の言葉で俺が吹いたと思ったようで、少しムッとした声を出した。
誤解だけど、この際ちょうどいい。
「別に。よく喋るなと思って」
『なっ………!!』
最初のコメントを投稿しよう!