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「無理だよ」
『…………』
「お前にカオルは、無理だ。
悪いけど、出直してこい」
『はぁぁぁぁぁぁー』
わざとらしい盛大なため息が雑音になって鼓膜をゆさぶる。
『あんたのその自信、どこから来るわけ?』
あるか、そんなもん。
「さー。経験値の差?
俺、こう見えて結構モテるんデス」
だけどそんな醜態、晒せるか。
十数時間前、柴田に投げつけられた台詞を準(なぞら)え、なに喰わぬ顔をする。
『ムッかつくー!!
ほんっといい性格してるよな!!クソッ』
「よく言われる」
だぁーっ!!という大音量の奇声に、反射的に携帯を耳から離す。
こいつは────。
柴田は自分の存在が俺にとって、なによりの驚異ってことに気がついているのだろうか。
大の大人が、強がりの虚勢を張って威嚇するしかできないこの現実。
バクバク騒ぐ心臓を誤魔化すように鼻で笑い飛ばした。
『………そこまで言うならさぁ』
不意に柴田が低く呟いて聞き取れなくて問い直すと
『泣かせないでよ、羽村。
あんたが思ってるより、羽村は賢いし考えてるし遠慮してるんだぜ。
ぶっちゃけ、見てらんねーよ、こっちは。
あんた、えげつない』
口に含もうとタバコを運ぼうとしていた手が、唇の直前で途方に暮れる。
…………ほら。
これが、俺の脅威。
解ってる。
判ってる。
柴田はカオルを俺と同じくらい
────いや、俺以上に
『理解(わかっ)て、いる』
のかもしれない。
カオルが我慢したり苦しんだりする弱さをさらけ出している相手は柴田、お前なんだ。
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