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「………カオル」
「はい?」
柴田のこと、どう思ってる?
聞きたい一言が喉に張り付いて苦い。
ギアチェンジして動き出した車を操りながら言葉が続かない。
「………」
「………先生?」
「………」
「………あの、いいですよ?」
黙ったままの俺を訝しげに見つめるカオルと、横目で一瞬だけ視線を交わす。
「なにが?」
「あげます、先生に」
「………なにを?」
「その猫の携帯ストラップ」
「………」
ポケットからはみ出し揺れるストラップを指差すカオル。
全く意に介していなかったズレズレの視点に、言葉を失った。
────カオル、なんでそうなる?
「くふふっ!やっぱりー!」
無言の意味を取り違えたカオルが、手のひらを口元で合わせて破願した。
「そんな気がしてたんです。
先生猫ちゃん派だったんですねっ」
赤信号で停止した車内でカオルに呆れ顔を向けてみたけれど。
盛大な勘違いを打ち上げて勝ち誇ったように笑う姿に、完敗。
前言撤回。
鋭くなんてない。
やっぱりこいつは、
例えようのないくらい、天才だ。
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