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季節は春。江戸。
とある甘味処で1人の少年が暖簾をかきわけて出てきた。口に串団子を含みながら辺りを見回す。少年は懐から小さな紙を取り出し、しばらくそれを見つめてから再び辺りを見回したかと思えば方向を定め歩き出した。
銀髪に少々落ち着いた天然パーマ、くりっとした目を眠そうに半開きにしながら口に含んでいる団子をもぐもぐと頬張る少年はただ歩くだけで道中の人々の視線を集めた。
見かけない顔だからという事もあり、大抵の人々はそのまま通り過ぎるが、一部の人間は少年をとある人物と重ねて見ていた。
1人の男が隣に歩いていた友人にひっそりと小声で話しかける。
「なあ…今のガキ、どっかで見た事ないか?」
「あ、やっぱお前もそう思ったか?俺もどこかで見た事あるような気がするんだよな…」
すると話しかけられた友人の方がハッと思い出したかのように「あっ」と言って少年のいた方向を振り返った。
だが、当然ながら既に少年はその場から遠く離れていた。
「どうしたよ?」
「いや、思い出したんだよ!あのガキ、どっかで見たことあるな~って思ったら…」
「”あの”万事屋の”坂田銀時”とそっくりなんだ」
もちろん、少年の耳にその名は届いていなかった。
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