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息苦しくて酸素マスクをはずそうと手を動かしたいのに点滴の針や心電図の機械が繋がっていて手も動かせない。
気持ち悪くて吐き気がして、こんなにしんどいなら死んだ方がマシだと思ってしまう。
だが、すぐにダメだと否定する。
この命は慎也だけのものではない。
母と兄の祈りの上に生かされているのだと知ってしまったから。
意識が朦朧とする。
目覚めたことに気づいて駆けつけた看護師や医師の声に反応するがすぐに眠りに落ちる。
そして、頭痛や息苦しさに目を覚ます。
何度もそれを繰り返し、数回目に目を覚ましたとき兄貴の顔が目に飛び込んできた。
兄貴は慌てて席を立ち背中を向けた。
それが、涙を隠すためだとすぐに分かった。
代りに泣き顔の母が近づいてきた。
慎也気分は?
お母さんが分かる?
慎也は頷いた。
背中越しにその気配に安堵した兄貴がドアへ向かって歩き出そうとしたので慎也は慌てて声を掛けた。
喉がカラカラでひきつった掠れた声になった。
「できすぎた兄貴を持つと弟は苦労するんだ。兄貴は背が高くて勉強もできて教師からも女からも良くもてた」
ようやく目を覚ました慎也の突然の言葉に母は目を丸くした。
兄貴は背中を向けたままだから表情は分からない。
「背は俺の方が高いが慎也の方が足は長い」
ぶっきらぼうな声が背中越しに返ってきた。
二人の息子を交互に見比べて母は吹き出して笑った。
「私に似たんだからどっちもカッコいいのは認めるけど、早く結婚して欲しいわ」
よかった。二人とも生きている。
元気でいてくれた。
本当によかった。
「今度、俺が兄貴の言葉を聞かずに出かけようとしたら、携帯電話を隠してよ」
「バカたれ」
応えた兄貴の声が少し震えていた。
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