第1章

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二十歳になった今更になって思い返すことがある。それは私が小学生だった頃、近所に住んでいた一つ上のお兄さんのことだ。そのお兄さんと仲がよかったわけじゃないけれど、その人の弟と仲がよかったからということもあるし、私の祖母のお葬式での出来事が印象深い出来事として覚えている。それと祖母の言葉も。 『あん子は獣に憑かれとるけん。あんたは近寄らんようにしとき、ああいう子は周りに障りば起こすけんね』 と言いながら、祖母が近所のお兄さん、私が通っていた小学校の先輩を見ながら言った。その人は猫背にニヤニヤとした薄気味悪い笑みに脂がこってりとこびりつてふけが混じっていそうな髪の毛の男の人だ。誰が言い出したかわからないけれど、私たちの間では彼のことをお兄さんと呼んでいた。 祖母には悪いけれど、私はお兄さんと関わり合いになるつもりも、関係をもつつもりもなかった。なんというか、生理的に受け付けないし、不潔だし、特別、接点もないような、加えて気味の悪い噂がたつような人と好き好んで仲良くなろうと思えるほど奇特な人間じゃなかったし、彼の弟からもなるべく近寄らないようにしてくれと頼まれていたからだ。 ただ、祖母の言葉が気になった。 『障りってなんのこと? 獣に憑かれとるって』 どういうこと?と、聞いたけれど、祖母はただ、知らんでよかことよと言っていた。まぁさして気になることでもなかったし、私はそこともさっさと忘れてしまった頃。 祖母が病死した。もともとから病気持ちであったし、高齢でもあったから私の親や近所の人達は悲しむというより、どちらかと言えばよく生きた。安心して逝かせてあげようといった和やかな雰囲気であった。 初めてのお葬式ということもあったし、そういったことに慣れていなかった私には退屈で、できればさっさと終わらないかなと思っていた。二十歳になって思い返すなら祖母の死というものは受け入れられてなくて、それと受け止めることができない私なりの現実逃避だったのかもしれない。当時の私の心境を完璧に思い返すことはできないけれど、そういうものだったと思う。 お通夜が終わり、お葬式になったとき、その人は、お兄さんは現れた。相変わらず汚らしい不潔な服装にニヤニヤとした薄気味悪い笑みを浮かべ、喪服姿がより気味の悪さを際だたさせていた。 近所の人たちもあからさまではなくても、遠慮がちな視線を
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