第1章

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向けていた。その後に続くように、お兄さんの弟と母親が入ってくる。母親は愛想笑いを浮かべて、ほかの参列者に挨拶を交わしていた。 私に気がついたお兄さんの弟君が、私のほうに寄ってきて、ちょっとぎこちない笑みと共にやっと言ったので、私も軽くやぁと返す。 親族の参列者は席が別にされていたけれど、私は子供ということあって、その席を離れていたのだ。弟君が世間話ついでにこれまでの経緯を話してくれた。 お一人で葬式には母親一人で参列するつもりだったらしいが、唐突にお兄さんがお葬式に行くと言い出したらしい。 「それって行きたいって行っていいものなの?」 まぁ、じゃあ追い返していいとはいかないだろうが、私の本音としては来てほしくなかったというのがある。たぶん、私だけじゃなかっただろう。嫌そうな視線を向ける人は居た。それも多く。 「うん、そうなんだけれどさ、母さん、兄貴のこと嫌っているから、それに留守番させといておかしな、なんていうかな、面倒事を起こさせるより、目につく場所に居させたほうがいいだろうから、それで僕も連れてこられたってわけ」 つまりは、せき止め役というわけか、災難なと同情したくなるけれど、弟君はそんなに気にした様子はない。いつものように笑っている。ニコニコと人当たりのいい笑顔を振りまいている。 「ふーん。そっか、大変だね」 とだけ、言って、生前、祖母が言っていたことを思い出して聞いてみる。もしかしたら弟君ならなにか知っているかもしれないと思った。 「獣」 と、弟君が言った。考え込むようにそう言って、知らないとだけ答えられた。そっか、変なこと聞いてゴメンねと言うと、そんなことないよ。 もう、そういうことには慣れているからねとだけ言うと弟君は母親のもとに戻って行った。 この時ほど、説得力のある言葉はその時だけで、弟君の人知れない苦労が伺えた。苦労人とは弟君のことを言うのだろう。 そんなこともありつつ、何事もなくお葬式が続いた。お兄さんがお葬式中に動き出すこともなくて、相変わらずニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべて祖母の遺影を見つめていた。その目には感情というものはまったく浮かんでいない。彼は泣くことはあるのだろうかと、どうでもいいことを考えていた頃。 その時だった。お坊様の読経がフッと途切れて、バタンっと前向きに倒れブクブクと泡を吹いた。何事かと親族が近寄るが、
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