第1章

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その後は泡を吹いたお坊様もすぐに目覚め、お兄さんは疲れたと言って部屋の隅で寝てしまった。母親は愛想笑いを浮かべながらああいう子なんですとだけ言ってまわっていた。参列者達もお兄さんが居なければどんなことになっていたかわからないし、襖の向こうに居る何者かもわからない。 とにかく、何事もなく終わるのならそれでいいと誰もが思っていたけれど、お坊様の面目躍如というか、単なる雑談のつもりで話してくれた。 お坊様いわく、昔は死体を乗っ取ってしまう鬼や妖怪が居て、死体を守るために小刀を一本、死体の胸のあたりに置いたりお坊様が寝ずの番をして死体を守ったのだそうだ。 死体を奪われた場合のことは話してくれはかったけれど、火葬してしまうのもそのためらしい、死体を骨にしてしまえば鬼や妖怪には死体を奪い取ることはできなくなるからと、今の時代はいい、すぐに火葬できるから、本当に楽になったのはいいけれど、怠け者の坊主が増えていかんとお坊様が苦笑いしていたが、参列者達の誰もがニコリとも笑わなかった。 お兄さんが、唐突に来たがったわけ。 襖の向こうのよくわからない何か。 不安だった私を落ち着かせてくれた誰か。 ガリガリ、シャンシャンという音。 棺から吹き出した白いもや。 訳も分からないまま、泣き出しそうなる。祖母が死んだのだと理解していたのか、単純に恐かったから泣いたのかはどちからはわからない。でも、 「よかったな。あんたのバー様が守ってくれなかったら、お前、連れて行かれてたぞ」 と、振り向くことなくお兄さんがそう言うとドンッと襖を開いて出て行った。そのままピシャリと閉めていく。もう一度、涙が流れた。 それからお兄さんがどうなったか私は知らないけれど、一度、出会えたのならちゃんとありがとうと言いたい。
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