第1章 深い暗闇。聞こえる声。重い想い。

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 暗闇の中で、声が響いた。     誰の声だかは、わからない。どこで誰が言っているのかも、わからない。聞こえてくる音を声として認識出来てはいるが、その言葉の内容までは聞き取ることが出来ない。  そもそも、なぜぼくはこんな右も左もわからない、なにも見えない暗闇の中にいるのだろうか。  記憶の貯金箱である大脳皮質がイカれてしまっているのか、なにも思い出すことが出来ない。というか、思い出すことがあったかさえ思い出すことが出来ない。  ぼくという存在が何者で、ぼくという存在がどれくらいのもので、ぼくという存在がどんなものなのか。  やがて、音としか聞こえていなかった声が、言葉という形に形成され耳へと届いてくる。 「聞こえますかー?」  なにも思い出せないが、今この状況だけには即していないと断言出来るほどに緩く締まりのない声が、鼓膜を揺らす。  ぼくは、答えた。 「聞こえてますよー」  同じように緩めに。  聞こえてきている声に対して、正体不明かつ意味も不明だが、怯えたって、気張ったって、仕方がない。
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