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入学して3ヶ月。
何とか大学生活にも慣れ始めた7月上旬、俺は登校して早々じめじめした嫌な暑さに苛々しながら、クーラーの効いた食堂に滑り込んだ。
汗と共に火照った体を冷気に冷やされていくのを感じて、ようやくほっと息を吐くと、朝から何も食ってないためグーグー主張してくる腹を抱えて食券機の前でちょっと悩む。
結局無難に夏野菜カレーを選び、手近の空いていた席に腰を下ろした。
スマホでLINEをチェックしながら、野菜のゴロゴロ入ったカレーをかきこんでいると、カタン、と空いていた向いの席にきつねうどんの乗ったトレーが置かれた。
おいおい了承もしてないのに相席かよ、とスマホから顔を上げて相手を確認すると、思わず「げっ」と声が漏れた。
「由良(ゆら)…」
にっこり。
そうとしか形容できない表情に、顔を顰める。
こいつのこの顔は……。
カレーが半分以上残っているのも構わず席を立とうと腰を上げかけるが、グイッと机に付いていた腕を引かれてバランスを崩してしまう。
「っ! …んのヤロ、危ねぇだろうがっ」
「1人なの珍しーな、斎藤」
人の話聞けやこの野郎…!
慌ててもう片方の手を付いてカレーに顔面ダイブするのを免れた俺は、目の前のまるで反省の色ゼロな男を睨みつけた。
しかし俺の睨みなんぞ何のその、由良は掴んでいた俺の手をグイグイ引いて、無理やりに俺を席に着かせた。
「くそっ、最悪だ……」
「ハハッ、酷くね? 斎藤1人ぼっちだったから声かけてあげたのにさ~」
不機嫌そうな俺に、何が楽しいのか由良はニコニコと笑ってる。
いや……コイツはいつもこんなもんか。
というか。
「誰も頼んでねぇよ…。つーかそもそもお前だって一人だろーが」
「まぁーねー」
「そんで好い加減キモいから手ぇ離せ」
「逃げないならね」
何を言ってもニコニコニコニコ。
鉄壁の笑顔で跳ね返される。
こういう時のコイツは、かなり”機嫌がいい”。
由良のその様子に、これはマジでヤバイ…と俺が冷や汗をかき表情を引き攣らせ始めた頃、ヤツは唐突に言った。
「ドライブ行かない?」
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