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行かない、行くわけがない。
俺が一も二もなくそう吐き捨てる前に、スッと目の前に諭吉が差し出された。
「……何のつもりだ?」
差し出される諭吉。諭吉から目を離せない俺。
この時点で勝敗はついているようなもんだが、俺は最後の足掻きで由良に問いかけた。
由良はニコニコ笑顔から、ニヤリ、と悪どい笑みを浮かべる。
「今月、困ってるんだって?」
その時点で俺の敗北は決定した。
俺の敗因は間違いなく俺の付き合いの良さにある。
誘われるままに飲みやコンパに参加しまくった結果だ。自業自得という言葉がこれ程身に沁みた事はない。
暫くは”ノリが良くて付き合いもいい斎藤くん”は封印しよう。
俺は涙ながらにひっそりと心に誓った。
「…そんで? また何でドライブなんだよ。どーせお前の事だから”そっち”系のことなんだろうけど」
「んー?まぁそれは後のお楽しみって事で。」
「んだソレ…。あーあ…何が楽しくて男2人でドライブ行かなきゃならないんだよ…。どーせなら女の子でも誘えばいいだろうが」
「何言ってんだよ、女の子を危険な目に遭わせらんないだろー?」
「お前が何言ってんの!? 俺ならいいってか!!」
「お前なんだかんだしぶとそうだし!」
無駄にイイ笑顔なヤツの頭を、取り敢えずわりと本気で殴っておく。
マジで行きたくないが、朝はキッチリ食べたい派の俺が朝飯抜いて場合によっては昼飯さえ抜かなきゃならん程の金欠なのだ。
そんな時の一万円がデカくないわけがない。
俺は泣く泣く金曜の夕方に由良とのドライブ、という虚しい予定を入れた。
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