第1章

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その日から、禿げの話題も少なめに交流を深めていたある日。 先輩の一人が頭に十円禿げを作り、皆に弄られているのを目撃。 というわけではなく。 先輩は当時、地元が同じで俺をコキ使っていたんだが、部活動の後輩である俺に部活動後、マッサージをするように言っていた。 それをこれまでのようにこなしていると、気付いてしまうわけだ。 これまではうまく隠せても、習慣や後頭部は隠せないって。 先輩の十円禿げに気付くと、これまで苦痛でしかなかったマッサージが癒しの時間に変わっていた。 それから毎日、先輩のマッサージを行い禿げを眺めては、笑顔で先輩に接する。 少しずつ、歩み寄る。 禿げに。 それを見て、俺の心は癒される。 でも、哀れむ時間も、哀しむ時間も有限だった。 時は流れて、禿げは治るもの。 と、知る。先輩は怪我で禿げたのだと知る。それは時間が解決してしまうのだと、知る。 先輩、どうして俺の顔を見て笑うんですか? どうして、そんなに嬉しそうなんですか? どうして…… 恥ずかしがりながら、告白してくるんですか? そんな先輩に俺は言いました。 『俺もいつか禿げるらしいので、禿げてる現状の人には微笑むようにしてるだけですよ』とは言えず。 「え、いやきっと弄られるのも嫌だろうから、ほらそれに後輩の俺が生意気言うのも悪いじゃないですか」 と照れながら返した。 内容がおかしくても、態度と慌て具合で良い方向に勘違いしてくれました。 そんな俺の内心ですが 正直……嫌がってます。 俺は独り善がりの同情と 人一倍の、嫌悪を持ってます。 そうです。 これは「軽蔑」だ。 禿げを軽蔑視してるんだ。 そこから、哀れんで同情してるのか。 俺も、禿げれたら何かが変わるのかな。 俺と先輩の仲はきっと、禿げなければ始まらない。
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