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僕には感情というものが存在している。
別に普通のことだ。
人間ならば、誰しも感情を持っている。
だから、僕にも感情はある筈だ。
例え他人のように豊かな感情表現が出来なくても、確かに存在している。
何時からだろう。
物事に興味を失い、自分の目的を達する為の手段しか選ばなくなったのは。
何時からだろう。
家族や友人と一緒に笑えなくなったのは。
何時からだろう。
それら全てがどうでもよくなったのは。
今はもう。
そんなことを考えるのも面倒だ。
◇◆◇
闇を照らす月は雲に隠され、街を照らすのは科学によって作られた光だけ。
その中でも際立つ光は赤色、それは深夜にも関わらず、サイレンの音を響かせていた。
パトカーの台数を数えるのは無駄だろう。
集う先は特徴も何も無い雑居ビル。
その外にはビルの住人達が避難させられ、不安そうにそれらを見つめていた。
「本当にここの地下に火葬場の心臓なんかあるの?」
そのビルの中、誰も居ない廊下を進む人の姿があった。
闇に紛れるように、その体躯は漆黒のスーツに包まれている。
その服装はまるで喪服のようだ。
そのまま葬式にでも向かえば、すんなりと入り込むことだって可能だろう。
だが、それは叶わない。
体格からすれば、その人物は女性だと判別出来る。
しかし、顔からは判別が出来なかった。
彼女の顔は不気味なマスクで覆われ、顔つきどころか、表情すら見ることが不可能だったからだ。
こんな格好で葬式に出れば、即座に警察に呼び出される羽目になる。
彼女は耳に当てていた携帯に向けて、再び口を開いた。
「見たところ、ただのビルよ。政府が馬鹿じゃなければ、こんなところにあれを置くとは思えないけど」
◇◆◇
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