第1章

2/7
前へ
/7ページ
次へ
僕には感情というものが存在している。 別に普通のことだ。 人間ならば、誰しも感情を持っている。 だから、僕にも感情はある筈だ。 例え他人のように豊かな感情表現が出来なくても、確かに存在している。 何時からだろう。 物事に興味を失い、自分の目的を達する為の手段しか選ばなくなったのは。 何時からだろう。 家族や友人と一緒に笑えなくなったのは。 何時からだろう。 それら全てがどうでもよくなったのは。 今はもう。 そんなことを考えるのも面倒だ。 ◇◆◇ 闇を照らす月は雲に隠され、街を照らすのは科学によって作られた光だけ。 その中でも際立つ光は赤色、それは深夜にも関わらず、サイレンの音を響かせていた。 パトカーの台数を数えるのは無駄だろう。 集う先は特徴も何も無い雑居ビル。 その外にはビルの住人達が避難させられ、不安そうにそれらを見つめていた。 「本当にここの地下に火葬場の心臓なんかあるの?」 そのビルの中、誰も居ない廊下を進む人の姿があった。 闇に紛れるように、その体躯は漆黒のスーツに包まれている。 その服装はまるで喪服のようだ。 そのまま葬式にでも向かえば、すんなりと入り込むことだって可能だろう。 だが、それは叶わない。 体格からすれば、その人物は女性だと判別出来る。 しかし、顔からは判別が出来なかった。 彼女の顔は不気味なマスクで覆われ、顔つきどころか、表情すら見ることが不可能だったからだ。 こんな格好で葬式に出れば、即座に警察に呼び出される羽目になる。 彼女は耳に当てていた携帯に向けて、再び口を開いた。 「見たところ、ただのビルよ。政府が馬鹿じゃなければ、こんなところにあれを置くとは思えないけど」 ◇◆◇
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加