1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ある。僕が言ってるわけじゃない。情報源は『古本屋』からだ。報酬は払ってる、あいつらは一度、僕達にきつい灸を据えられてるからな。余程の馬鹿か、命知らずの自殺志願者じゃなければ嘘の情報は出さないだろう」
青年は耳に当てていた携帯に向けて、そう話した。
コンビニエンスストアの籠に、インスタント食品ばかりを詰め込みながら、表情を変えることなく、淡々と言葉を並べていく。
「火葬場の心臓はひとつじゃない。そこはただ単に、実験的に作られた場所だ。政府はそこを未だに使用してるんだよ」
支払を終え、青年は雑踏の中を進む。
そこにパトカーが何台も集まるような不穏な空気は感じられない、道を歩く人々は、夜にも関わらず陽気な声を上げて繁華街を進んでいた。
遠く離れた場所で起きている事件等、彼等には関係無いのだろう。
翌日のニュースや新聞で事件を知り、うわべだけの感想を述べるだけ。
人間は直接関わりの無いことに関しては、極めて冷血だと青年は思う。
だが、それを非難なんてしない。
青年からすれば、そんなことはどうでもいいことなのだから。
「来ているのは警察だけか? そこが当たりだとすれば、『白服』も来ているだろ」
《そうね……えぇ、到着したみたいよ》
青年の問い掛けに、通話先の女性が答える。
その声は何処か蠱惑的で、性的な昂りを感じさせるものだった。
彼女の答えを聞き、青年も笑う。
歪に、邪悪に、悪魔のように。
「当たりだ。小枝、予定通りに進めよう。お前は囮だ、死んでもいいから踊りを止めるな」
《ふふっ、結人……あんたより長生きするつもりよ。それに、どうせ死ぬなら結人と死ぬわ》
「お断り――」
結人はその後の言葉を口にしようとするが、それを小枝が遮る。
《それより。結人……『彼』も来てるけど?》
その言葉を聞き、結人の足が止まる。
しかし、その表情は変わらない。
そして、また笑った。
「あぁ……気にするなよ。構わず踊れ」
《そう? まぁ最初から『どうでもいい』んだけどね》
ブツっと。
乱暴に通話は終わりを告げる。
結人は通話履歴を消去し、また雑踏を進んでいく。
これから始まる喜劇の結末に期待を乗せて、繁華街の人波の中に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!