第1章

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「ある。僕が言ってるわけじゃない。情報源は『古本屋』からだ。報酬は払ってる、あいつらは一度、僕達にきつい灸を据えられてるからな。余程の馬鹿か、命知らずの自殺志願者じゃなければ嘘の情報は出さないだろう」 青年は耳に当てていた携帯に向けて、そう話した。 コンビニエンスストアの籠に、インスタント食品ばかりを詰め込みながら、表情を変えることなく、淡々と言葉を並べていく。 「火葬場の心臓はひとつじゃない。そこはただ単に、実験的に作られた場所だ。政府はそこを未だに使用してるんだよ」 支払を終え、青年は雑踏の中を進む。 そこにパトカーが何台も集まるような不穏な空気は感じられない、道を歩く人々は、夜にも関わらず陽気な声を上げて繁華街を進んでいた。 遠く離れた場所で起きている事件等、彼等には関係無いのだろう。 翌日のニュースや新聞で事件を知り、うわべだけの感想を述べるだけ。 人間は直接関わりの無いことに関しては、極めて冷血だと青年は思う。 だが、それを非難なんてしない。 青年からすれば、そんなことはどうでもいいことなのだから。 「来ているのは警察だけか? そこが当たりだとすれば、『白服』も来ているだろ」 《そうね……えぇ、到着したみたいよ》 青年の問い掛けに、通話先の女性が答える。 その声は何処か蠱惑的で、性的な昂りを感じさせるものだった。 彼女の答えを聞き、青年も笑う。 歪に、邪悪に、悪魔のように。 「当たりだ。小枝、予定通りに進めよう。お前は囮だ、死んでもいいから踊りを止めるな」 《ふふっ、結人……あんたより長生きするつもりよ。それに、どうせ死ぬなら結人と死ぬわ》 「お断り――」 結人はその後の言葉を口にしようとするが、それを小枝が遮る。 《それより。結人……『彼』も来てるけど?》 その言葉を聞き、結人の足が止まる。 しかし、その表情は変わらない。 そして、また笑った。 「あぁ……気にするなよ。構わず踊れ」 《そう? まぁ最初から『どうでもいい』んだけどね》 ブツっと。 乱暴に通話は終わりを告げる。 結人は通話履歴を消去し、また雑踏を進んでいく。 これから始まる喜劇の結末に期待を乗せて、繁華街の人波の中に消えていった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加