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◇◆◇
「……ん~、『白服』と言っても、こいつら有象無象の衆だけね」
小枝は携帯電話を握り潰し、廊下へ投げ棄てる。
幼さの残る声に含まれる不満。
仮面の下に隠された瞳は眼前に現れた敵を値踏みするかのように輝いていた。
その中に、電話で告げた『彼』も存在している。
小枝はゆっくりと歩を進めた。
瞬間。
銃声が鳴り響く。
「動くな! お前は包囲されている。無駄な抵抗をやめて投降しろ!」
続いて飛び交う警告の声。
それを聞いて、小枝は大声で笑った。
「あは……あはは! なにそれ! なぁにぃそれぇ!? そんな定型文を使うなんて、ドラマか漫画の見すぎよ、あはっ、あはは!」
苦しそうにお腹を押さえながら、彼女は今にも転びこけて笑い出してしまう勢いで笑う。
銃を突き付けられたままだというのに。
そこに恐怖という感情は存在していなかった。
純粋に楽しんでいるだけだった。
それを見た敵に、ゾッと、寒気が走る。
――こいつは、なんだ? という、未知なる者に対しての恐怖。
その恐怖に対して、一人の男が行動を起こした。
「く、馬鹿にするなぁぁあっ!」
絶叫と共に引かれた引き金。
撃鉄が火薬に火を付け、弾丸が小枝に突き刺さる――筈だった。
寸分の狂い無く頭を狙った、当たる筈だった。
そう。
普通の人間なら。
此処で終わっている筈だった。
「ねぇ……あんた。自分の命を終わらせる引き金を引いた気分はどう?」
その目に捉えていた女性が発砲と同時に姿を消し、次の瞬間には耳元からそんな声が聞こえてきた。
有り得ない――そう思った。
それが男が最期に遺そうとした言葉。
「有り得なっ――……」
グシャ、と。
闇の中に残された嫌な残響。
何かを握り潰したかのような。
それは、小枝が男の頭を握り潰した音だった。
つい先刻まで人間だった『物』は、壊れた人形のように地に落ちる。
「あはっ……! さぁ――」
そして聞こえる死神の声。
陽気に、無邪気に、子供のように。
「殺し合いをしよう?」
小枝が笑った。
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