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化捜隊のメンバーである青年、白木海人は眼前で繰り広げられていく殺戮に舌を打った。
闇の中に広がっていく赤色。
木霊する絶叫。
脳裏に焼けつく断末魔。
海人は今にも飛び出しそうな自分を必死に抑え込んでいた。
――目の前で死んでいく仲間を前にして待機命令、どういう意図で待機しなきゃいけないんだよ!?
もう耐えきれない。
そう思って駆け出した瞬間、彼の肩が掴まれる。
その手を振り払って進もうとしたが、それは叶わなかった。
「海人、待機しろ。命令だ」
耳に届く厳かな声。
彼の上司である藤堂鉄の姿が真後ろにあったからだ。
「っ……けど鉄さん! 俺達が動かないと全滅するぞ!」
「分かってる。そんなことは……だから――」
そう鉄が言った瞬間、海人の背筋が凍り付く。
圧倒的な殺意を込めた瞳からは、容赦というものが存在していなかった。
鉄は自身の装備を展開し、その一歩を踏み出す。
そして叫んだ。
「一般武装の隊員は下がれ! 特殊武装の隊員は俺の援護に回れ……人外を火葬場へなど送らすな! ここで処分する!」
喪服を着た仮面女に向かって鉄が走り出す。
海人は間髪入れずにそれに続いた。
「待ってました……!」
圧倒的な迫力で迫り来る脅威に対して、女は笑う。
「ふふっ……やっと殺しがいのある奴等が来たわね。さぁ……私を見なさいよぉぉおっ!」
女がそう叫んだ瞬間、その背中から真紅の翼が発現する。
それはまるで血の塊のように醜く、出来損ないの肉片のように不恰好な、翼というよりは翼に近い何かだった。
手も同じ様に肥大化し、鋭利な爪が突出している。
非望的進化症の特徴である身体変化、形状を自身の意思で変化させることが可能な、レッドレベルで間違いない。
「化物が……さっさと死ねよ!」
それを目の当たりにしても、海人は一切戸惑わない。
敵を駆逐するために闇を駆け抜けていく。
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