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「で?その惚気に何て答えて欲しいのかしら?」
「え?これ、惚気ですか?」
ノーゲストの最中、恵は最近思うところを店長に相談すれば呆れたように突き返された。
「あのね、家にいないからって何十件も電話されて、携帯も調べられて、暇さえあれば店に顔出して監視して、誰といるか逐一知らせなきゃいけない環境を、何の疑問もなく嬉しそうに応えるあんたに悩む資格ないわー。」
「愛故に、ですよ。」
「はい、解決。」
えー。
不満そうにグラスを磨けば、ため息をつかれた。
「別れて幸せになってほしいって言うのは、ただの偽善よ。よっぽどの理由がない限りはね。」
「そうですよね。」
「まぁ、あんた達はお互い殺し合っちゃいそうどけど。別れるとかなったら。」
「よっぽどですね。」
「自覚ないのが、怖いくらいだわ。」
今度は憐れそうに目を細められた。
自分に自信がもてたらそんな不安がなくなるかと言われれば、そうも思わない。
「遊びだけの関係になれてると、本気が怖いんですよね・・。」
核心はそれだった。
誰だって失うのは怖い。大切であればあるほど。
「遊んだ代償だと思って悩みなさい。」
店長らしい台詞だなと思いながら、ピカピカになったグラスを見つめた。
そこにうつる自分が、少しだけ笑っているようにも思えた。
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