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「素敵な出会いだったので、つい声をかけてしまって。長居させてしまってすみません。お約束してましたか?」
先程とは違う笑顔の薫に、ん?と違和感を覚えた。
「ええ。仕事終わりに待ち合わせしてて。暇にさせないで良かったです。」
椎名も椎名で、してもない約束の話をされ、さらに違和感を感じたが、どうも言い出せなかった。
「お待たせしました、高橋さん。行きましょうか。」
「あ、う、うん。じゃあね、薫さん。楽しかったよ。」
「私も楽しかったです、恵さん。またお話しましょうね。」
うん、と軽く返事をし、手を振って店を出ると、椎名に手をとられツカツカと早足で歩きだした。
「ちょ、ちょ!椎名、早いよ。」
無言のままの椎名。
どこか怒っているようだった。
そこで、はっ!と気付いた。
「椎名、あの子とは何でもないよ?たまたま、再会して話してただけでね。」
「たまたまで、下の名前で呼ぶんですか?」
やっぱり!
あの椎名が焼きもちを焼いている。
新鮮な気持ちで思わずキラキラした目で見てしまい、余計に機嫌を損ねてしまったようだった。
「嫌いになった?」
ずるい言い方だと思ったが、やはり椎名は首を縦にふる事はなく、少し泣きそうな顔になった。
「浮気なんてしないよ。」
「、、、、ほんとに?」
信用されてない?
苦笑いになりつつも、今度は椎名の手を引いて先頭を歩いた。
「ほんとだよ。」
「え?」
聞こえなかったのか、椎名も大股で歩いて横に並んだ。
「お互い、大変だね。好きすぎて。」
椎名は耳元でそれを聞くと、一瞬で顔が赤くなり、目があった。
「ずるい。」
二人ともお互いの顔が赤いのを笑いあいながら、帰ったのであった。
しかし、椎名は、薫の節々に感じる、言葉のトゲに気付いていた。同性から言われることはなれている。
今回は、自分に対するものでなく、高橋に向けられていることも。
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