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扉の向こうからの声に彼らは咄嗟に頭を垂れた。
透明な、よく通るその声はまぎれもなくこの館の当主のものだ。
背丈の大きな使いに扉を開けられ、上等なスーツを纏った当主は室内を見渡し、まず苦笑した。
「そんなに畏まらないで下さい。調子が狂います」
「って言われても、今日から一応雇い主だしなあ」
「雇い主は伽耶で変わらない。僕はあくまで、彼女の家族になるだけです」
あんたがそう言うなら、と東雲が頭を上げ格好を崩せば、隣の依もほうっと息をつき、背を丸める。
「で。報告した通り、拐われちゃった訳ですけど?」
「はい。皆さんは、ここで待機していて下さい」
「は?」
猫を抱いた使いは怪訝な表情を浮かべながら、相変わらず猫を撫でている。
当主が執事に敬語を使い、執事が当主に不遜な態度を返す。
しかし室内の誰もがそれに疑問を抱く事無く、当主すら柔らかく微笑んでいた。
「彼女を拐った人物に、心当たりがあります」
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