7人が本棚に入れています
本棚に追加
「キミは、もう一人じゃない」
「え?」
「キミの家族になる男は優しい男だよ。少なくともキミのご両親の遺産に目の眩んだ馬鹿共より、遥かにキミを想っている」
朗々としたよく響くトーンで男が言う。
コーラスの様に、木々のさざめきが続いた。それはとても牧歌的な光景だった。
男の、子供のように笑うその声からは想像もつかない声色に、伽耶はじっとその仮面を見つめた。
「だから、もう何も怖がらなくていいんだよ」
目を見開く伽耶。
馬車の中で抱いていた不安を言い当てられた気がして、怖いような悔しいような。
それでも一度唇を噛み締めると、しっかりと言葉を吐き出す。
「連れ出してくれるんじゃ、なかったの」
「いくらでも連れ出すよ。伽耶が望むなら。けれど、キミの気がすんだら、キミを家族の元に帰す」
「……どうして、希望を持たせるような事を言ったの」
「キミの言う希望は「逃げ」だ。逃げていたら、何も始まらない」
目の前に差し出された右手を、伽耶は勢いよく叩く。
最初のコメントを投稿しよう!