ようこそ

5/7
前へ
/24ページ
次へ
  「キミは、もう一人じゃない」 「え?」 「キミの家族になる男は優しい男だよ。少なくともキミのご両親の遺産に目の眩んだ馬鹿共より、遥かにキミを想っている」 朗々としたよく響くトーンで男が言う。 コーラスの様に、木々のさざめきが続いた。それはとても牧歌的な光景だった。 男の、子供のように笑うその声からは想像もつかない声色に、伽耶はじっとその仮面を見つめた。 「だから、もう何も怖がらなくていいんだよ」 目を見開く伽耶。 馬車の中で抱いていた不安を言い当てられた気がして、怖いような悔しいような。 それでも一度唇を噛み締めると、しっかりと言葉を吐き出す。 「連れ出してくれるんじゃ、なかったの」 「いくらでも連れ出すよ。伽耶が望むなら。けれど、キミの気がすんだら、キミを家族の元に帰す」 「……どうして、希望を持たせるような事を言ったの」 「キミの言う希望は「逃げ」だ。逃げていたら、何も始まらない」 目の前に差し出された右手を、伽耶は勢いよく叩く。  
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加