はじめまして

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  物語は、この二十分程前。 整備されていない山道をひた走る、化粧箱のような馬車の中から始まる。 子女・一色伽耶は、三週間程前に全てをなくした。 最も、両親が残した莫大な遺産は彼女に所有権があるのだから、"全て"という表現は些か誤っているかもしれない。 けれど、優しい両親と可愛い弟・荘一郎を一挙に亡くした。 まだ二十に満たない伽耶にとって、家族の笑顔が生活の大多数を占めていたにも関わらず、彼女だけが"生き残り"として生き永らえた。 そんな伽耶を引き取ったのは、ある貴族の次男坊だった。 彼女とその次男坊は遠縁の親戚でありながら、実際面識は無い。 伽耶がかけがえのない家族を引き換えに得た背負った莫大な遺産は、齢十九という、一人で生きて行くには心許無い彼女を引き取りたいという人間を数多寄せ付けた。 しかし全てをなくし過敏になっていた彼女の心は人の欲を敏感に嗅ぎ分け、目を通した殆どの手紙をそのまま暖炉にくべてしまっていた。 そして彼女は、「何も持たず僕の家に来なさい」という、件の遠縁の次男坊の手紙を選び手に取る──  
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