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「嬢、直に着く」
「もう暫しご辛抱下さいね」
「うん、ありがとう」
数着の着替えと化粧道具、それから幼い頃から身の回りの世話をしてくれた使いの者を数人だけ連れて、伽耶は次男坊の住まう街、御坂に向かっていた。
窓から外を眺めれば、美しい街並みが迫っている。
御坂。
美しい街並みと豊かな自然、そして商売人達の活気溢れる様子に、神さえも坂を転がるように入り浸ると言われているその街。
片田舎で暮らしていた伽耶も、その白亜の美しい街並みに心が躍らないと言えば嘘になる。
それでも、大きな溜息を吐き出した。
自分を引き取ってくれる事はありがたいが、この先の生活に何が待っているのか。
目当ては遺産か、それとも。
浮かぶのは暗い想像ばかり。
表には出さないものの、徐々に鮮明になるその町に向かうのは億劫だった。
──この小さな箱から逃げ出せるものなら、逃げ出してしまいたい。
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