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私は窓の外の雲をぼんやりと眺めたままポツリ呟く。
「……朝陽…」
雲から視線をはずし並木に視線を移した。
そこに蘇るのはスケッチを手にする朝陽。
そしてこの窓を隔てて朝陽に憎まれ口を叩く私と初めてのキス………
そっと自分の指を唇に触れさせ瞳を閉じた。
ほんのり温かな気持ちと切ない気持ちが入り混じった。
それは小さい頃よく口にした花の蜜が口に広がるようなささやかでいて密かで小さな幸福感に似ていた。
でも、
でももう、これ以上さくちゃんを裏切るわけにはいかない……
私は『僕だけを見ていて』と言ったさくちゃんを、
今までずっと守ってくれていたさくちゃんを
これ以上哀しませるわけにはいかないと心の中で自分に言い聞かせた。
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