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「ねえ、佐藤さん。いくら仕事をてきぱきこなせたとしても、部数を間違えてたら意味がないと思うのよ。違う?何で言われた時にメモをしなかったの?メモさえしておけば、こんな初歩的ミスなんてなかったでしょ」
「申し訳ありません。でも……」
「でも、なんて言い訳はいりません。
メモをとらなかったあなたが悪いのですから」
「はい、申し訳ありません」
悔しい!悔しくて仕方ない。
言われて直ぐにコピー室へ行って、コピー枚数を入力したのだから、絶対に間違えない。
「新人は、言われたことだけをやればいいの。それ以上望んでやろうとするのは、今のあなたでは生意気に映ります」
「はい」
え、でも自分の手が空いたら、少しでも役に立ちたいって思っちゃ駄目なの?
忙しくしている先輩に声を掛けてはいけないの?
白石さんの話を聞いてると、それすらも駄目だと言ってるように聞こえてくる。
ただのいびりにしか聞こえてこない。
そんなことを考えてたら、更に白石さんの声が飛んできた。
「なんだかんだ言って、あなた私のこと嫌いなんでしょ。言いたいことがあればハッキリ言ったらどうなの、言いなさい!」
「申し訳ありません」
悔しいけど、言い返すなんて出来なかった。
唇噛んで、その時が流れるのをただ待つだけしかなかった。
泣くもんか、私は間違っていないんだから、泣いてなんてやるもんか。
給湯室である『いびり部屋』の前を鬼塚主任が通っていく。
入り口を背に立っていた白石さんは気がついていない。
鬼塚主任は、しっかりとこの『いびり部屋』の様子を見ながら通っていく。
「佐藤さん、聞いてるの!これからはちゃんと言われたことはメモに取る。同じ間違いは二度としない!いいわね!」
仁王立ちした白石さんは、それだけ言うと、部内へと戻っていった。
「はぁ―― 」
もう、ため息しか出なかった。
ぐっと握りしめていたからなのか、気がついたら掌にツメ跡が残っていた。
「あーあ……」
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