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白石さんに言われたことが頭から離れず、ボーッとしたままその後を過ごしてしまったため、今日中にやらなければいけなかったことが、終業時刻を過ぎても終わらなかった。
「佐藤さん、まだ終わらないの?それ、今日までだったわよね」
帰り支度を始めた白石さんが、私の方へ近づいてくる。
「はい、申し訳ありません。残業して今日中に終わらせます」
「そうしてちょうだい。それじゃ、お先に」
悔しい!もう、ホント悔しい。今に見てろー!悔しくて、そんな言葉しか出てこない。気が荒ぶってるから入力ミスも頻繁に起きてきて、思うように進まない。
「あぁ―― 」
一人フロアーに残り入力していたら、だんだん画面の文字がぼやけてきて、気がついたら、資料の上にポタリと水の雫が落ちていた。
会社で泣くなんてみっともない。
それこそ学生じゃないんだから……
白石さんの声が聞こえてくるかのようだった。
くそー、負けてなるものか――
少し休憩しようと、自販機コーナーに行く。
ビニールシートの長椅子に見知った人が座っていた。
鬼塚主任だった。
あれ?あの人帰ったんじゃなかったっけ?
キョトンとしたまま、立っていたら鬼塚主任が「飲むか?」って缶ジュースを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
受け取ってビックリした。
「主任、これ‘プリンシェイクジュース’って書いてますよ」
「好きなんだろ、甘いの。やるよ。」
手にした新聞を折りたたみながら、続けて話す鬼塚主任。
「白石のことだけどな、頑張ってアイツに付いていけ。
確かに嫌みなヤツかも知れないが、見込みのあるヤツにしか厳しくしない。
ま、今回の部数伝達ミスは完璧アイツのミスだろうけどな。理不尽だろうけど許してやれ。先輩に黙って貸しを作るのも良いものだぞ」
鬼塚主任の言葉を聞いてたら、涙がこぼれてきた。
白石さんにいろいろ言われて、悔しい!って泣いたけど、でもちゃんと見ててくれる人もいるんだ。
「鬼塚主任、ありがとうございました。もう、大丈夫です」
ニコッと笑顔で返す。
「お!お前、笑うと片方だけえくぼが出来るんだな?」
鬼塚主任がそう言って、私の頭を片手でクシャッと撫でた後、立ち去っていった。
「えっ?!鬼塚主任……」
鬼塚主任らしからぬ行動にちょっとビックリして、立ち去っていくのをずっと眺めていた。
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