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雨ばかりが続いて鬱陶しかった6月も終わり、7月も2週目に突入した。
白石さんには、「まだ週末食べに行ってるの?」と聞かれたけど、思いっきり「はい!」って言っといた。
私のストレス解消法の一つだもの、言われたからって、止められない。でも、毎週通ってたパティスリーが今では、月に2回くらいと落ち着いた。これも白石効果なのかな。
今日は、最近駅前にオープンしたというパティスリーへ行こうと思う。
モンブランに熱いストレートティーを飲みながら、まったりと過ごす。これが至福の楽しみ。
窓際の席に案内されて座ったら、誰かの鋭い視線を感じる。
視線を辿って振り返ったら、後ろの席に鬼塚主任が座ってた。
鬼塚主任のテーブルの上には、苺が乗ったショートケーキの他にフィナンシェ(焼き菓子)が2つ。
コーヒーカップ片手に持っている鬼塚主任と目が合って、しばし唖然……。
鬼塚主任が開き直った様子で声を掛けてきた。
「よ!奇遇だな」
「こんにちは。主任、ショートケーキ好きなんですか?」
好きだからショートケーキが目の前にあるのに、いささか私も動揺していたみたい。
「まぁな……」と、なんか意味ありげな返答をする鬼塚主任。
「この頼み方が一番怪しまれないんだよ」
「怪しまれないって何ですか?」
思ったことをついそのまま返してしまった。
「いや、男一人でケーキ屋入るの勇気がいってな……。
その前に、お前一人か?なら、こちらへどうぞ」
そう言って、相席を勧めてくる。無下に断ることも出来ず、席を移動。
「お邪魔します」一言添えて、席に座った。
「パティシエやってる知人がいてな、そいつが言うんだよ。
店に入ったら、目当てのケーキの他にフィナンシェ2個頼めって。
目当てのケーキが無ければ、苺のショートかチーズケーキを頼むと良いらしい。
そうするとな、店員が同業者と思うそうだ。パティシエが他の店へ勉強に行くとき、一番その店の味がわかるものを買うからなんだと。」
「へー、そんな裏技があるんですね。
え?でも主任、それってもしかしてテイクアウトの時だけじゃないですか?
だって、店員さんには確かに同業者に見られますけど、お店に来てるお客さんはそんなこと知りませんよ?
うわー、あの人勇気あるーって見られてるかも」
そう言って、思わず「クスッ」と笑ってしまった。
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