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「あ゛?!」
「申し訳ありません。今のは余計な一言でした」
ペコリと頭を下げて謝ったのだけど、主任のご機嫌は直らない。
「赦せるか!俺を傷つけるなんて100年早いわ!罰として、来週ちょっと付き合え!」
いきなり言われた訳のわからない約束に、驚いた私。
「え?つ、付き合うって?」
「あ゛?! お前、毎週甘いもの食べに行ってるんだろ。何だ?都合悪いのか?」
「いえいえ、都合悪くありません。甘いものツアー、お供致します」
「わかればいい」
主任は途端に機嫌が良くなったようで、ショートケーキを突っつき出した。
私は、モンブランとストレートティーを注文する。
「ところでお前、プリンアラモード好きか?」
「はい、嫌いじゃないですね……って、もしかして、この前の‘プリンシェイクジュース’、本当は主任が飲もうと思って買ったんじゃ?」
以前、白石さんにこっぴどくやられた日に、主任からもらったジュースのことを思い出した。
「あー、それなぁ。本当は俺が自分で飲もうと思ってたんだよ。
でも、タイミング良くお前が現れたし、まさか飲めんだろ。
一応、鬼の鬼塚って言われてるヤツなんだから」
窓の方に顔を背けて言う主任。
あ、主任自分のこと鬼の鬼塚って呼ばれてること知ってたんだ。
「なんだ?」
「いえ、」とっさに否定する私。
「あ-、あれか?そりゃ耳に入ってくるさ。一応、フロアーの責任者だし鬼の鬼塚だから、細かいところまで目を光らせてないとな。
じゃないと……、いじめられて泣いてる新人をフォローすることも出来ない」
主任は珈琲を飲みながら、勝ち誇ったような顔して言ってくる。
「主任、酷いです……。あ、でも酷くないです――」
思わず俯いてしまった私。すかさず、主任が突っ込んでくる。
「ん?何だそれ、どっちだ?」
「あ……ありがとうございました」
「うん、宜しい」
主任がクスリと笑って言う。
何だろう、主任のこのギャップ。
会社では、鬼の鬼塚で冷酷非情な鬼の形相とまで言われてるのに、今、目の前にいる主任は、楽しそうに笑っている。
主任の表情一つでこんなにも心が動かされるなんて、どっちが本当の主任なの?私は、何でこんなにもドキドキしているの?
動揺している私をよそに、来週の日曜、主任とプリンアラモードを食べに行くことになった。
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