プリンアラモード

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そして、日曜日。 港の見える丘公園駅で待ち合わせ。 サマージャケットにスリムパンツを履いた背の高い男性を発見。 格好いいな、と見とれていたら鬼塚主任だった。 主任について歩いて行くと、目の前に大きなホテルが現れた。 「主任、聞いてもいいですか?食べに行くのは、プリンアラモードですよね?何でこんな由緒あるホテルに来たのですか?」 「あ、お前知らないんだな。ここのホテルが、最初にプリンアラモードを作ったんだ」 そうなんだ、プリンアラモードがこんな素敵なホテルで生まれたなんて。ホテル内にある喫茶店に入り、通された席に座りながら、周りの様子を眺めてた。 「そういや、お前の弁当には、ウサギの形をしたリンゴが入ってるそうじゃないか」 鬼塚主任が得意げに話してくる。 なんで、鬼塚主任が私のお弁当の中身まで知ってるの!恐るべし鬼塚。そんな思いもあって、思わず言ってしまった。 「な、なんで主任、私のお弁当の中身まで知ってるんですか!」 「いや、鬼の鬼塚だから、自然と情報が入ってくるんだよ。白石に毎回泣かされて赤い目をした新人が、共食いのようにウサギのリンゴ囓ってるって。 お前こそそんな話聞いたことなかったのか?」 「し、知りませんよ!そんな話!」 思いっきり、目の前で手を振って、知らない、知らないと言ってみた。 うー……、もう白石さんに怒られても、絶対泣けないし、これからはデザートにリンゴも持っていけない。 私の動揺に全く気付いてない鬼塚主任。 「そのな、リンゴをうさぎの形にカットしたのもここが最初だそうだ。もっともフランス料理に‘アロー’というカット方法があって、それをリンゴに用いてみたらウサギに見えたって言う話らしい」 「へー、主任、そんなことよくご存じなんですね」 その知識に思わず感心してしまい、主任を尊敬のまなざしで見てしまった。 「まぁな、知ったのは至って単純。プリンアラモードが食べたくなって、調べてたらたまたま載ってたって話。格好良くも何ともないわな」 そんな話をしていたら、透明のガラス皿に盛りつけされたプリンアラモードが2つ運ばれてきた。 「主任!凄いです!うわー、ウサギちゃんが!アイスが!プリンが!!!!」 興奮して思わず叫んだ私を、主任の鋭い視線が止めに掛かった。 「佐藤、ちょっと落ち着け。な、いいか落ち着け」
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