夏は来ぬ 干す蛞蝓や 草の蔭

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<季題> 夏、併せて蛞蝓 <季節> (酷暑の)夏 夏: この句では上記の通り、一般的なものでなく酷暑の夏、特に日中を指す。 は: 連体格助詞。主格。 来ぬ: 字義通り完了形。「『ついに』来た」や「来て『しまった』」の意。 干す: ひす。ここでは自動詞。直後の蛞蝓を修飾する連体形。 「乾く」の意だが、特に「干からびる」意をも含むものとして解釈すべし。 蛞蝓: かつゆ(漢語)、ただしこの句では和語読みで「なめくじ」。陸貝の一種で甲殻が退化したものであり、故に極端に乾燥に弱い。 頗る妖艶でエロティックな交接をする両性具有の軟体動物として著名。この点から展開し、性交(性行為)、即ち生を再創造する営みの暗喩として解釈できる。更に転回し、陰茎・女陰双方の象徴としての解釈もまた可能。 や: 副助詞。俳句特有の詠嘆。この句では文脈上、中句切れを示す切れ字とはならない。 草: 文字通りの草本だが、ここでは背丈の低いものに限定。 多くのナメクジがその生を維持するための食物となる点に、留意(一部の肉食種については看過)。 蔭: 自然本来ならば、ナメクジの生命を脅かす乾燥から逃れるための「隠れ家」だが、ここでは「草葉の蔭」、即ち墓場または死それ自体を暗喩するものとして解釈せよ。
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