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政は職業柄、加奈江は元々、筆記具には、えんぴつ一本にしてもすごくこだわりを持っていた。芯の削り方ひとつで気分が違った。
「でも、せっかくお義父様から頂いたのに……」
「カナがどうしても、ってことなら無理にとは言わないけど。お前も商売道具になりそうな一本は持っていてもいいんじゃないか?」
政はそう言って、髪を拭きながらちゃぶ台の上にある煙草を一本口にする。
「うん、ありがとう」
彼の父からもらったペンと、彼のペンを見比べつつ、加奈江は言う。
「新しいペンもいいけどお出かけはしたいわ」
「今度の週末は銀ブラと洒落込むか」
「うん」
ふーっと吐き出す紫煙の向こうにいる政は、アズキの顎をごりごり撫でている。
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